Q&A
電話相談に応えて2010年07月01日
Category: Q&A
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Question
●はるばる九州K市から相談のお電話。
●息子さん、中2、13歳。
大事な大事な一人息子さん
●中1前半まで、難しいこの中学校でほとんど 成績は学年トップ。殆どどの子が学習塾へ行っている中で、彼は自宅学習だけ。「どうしてお宅のお子さんはそれだけであんなに出来るの」と同じクラスの子のお母さん。分からないことがあれば親が教えた。
●お母さんもかつて学校へお勤め。息子さんの様子がちょっと気になり出したので、勤めを辞めて家に入った。過保護にしたかも知れない。
●小さい頃肝臓に障害があり、難しい大手術を思い切って受けた。その折、とてもいいお医者さんだったのですっかり回復。今では部活でバレーボールをやり、長距離走が得意。一時は大変な手術で、その成功も覚束ない程のものだったので、悲しみのあまり息子と一緒に川へ飛び込もうと思ったほど。
●小学校で児童会長の候補に推され、担任の先生にも熱心に説得されたが、とてもイヤだったが引き受けた。周りからは明るく楽しく、時にはちょっとお調子者に見えるくらいかも知れないが、実際には人見知りのところがあり、慣れるのに時間のかかるタイプだと思う。
●じっくり頑張るタイプ。
感性豊かな子だと思う。
●11月の終わり、英語の成績がちょっと下がったので、「やはり塾に行くか」ということになり、本人の希望で行き始めたが、これの宿題が山ほどあって、それをこなすのが大変になる。本来、ガリ勉タイプではなかったが、それに追われるようになった。あるいはそのことが引き金になったのかも知れない。
●このごろ急に全く勉強をやらなくなってしまった。夜早くから、翌朝7時まで10時間以上も寝るようになった。急に反抗的になり、「僕はお母さんのロボットじゃない」「ガリ勉なんか大嫌いだ」と当たるようになった。
●付き合う友達もすっかり変わってきた。いわゆる「心配な子ども」たちと。その中の5人が万引きをやって捕まった。たまたま彼は入っていなかったが、いつでもそうなりそうな可能性があって、それも大きな悩みのタネ。
●彼の部屋に入るのも嫌がるようになった。
●お母さんの声は話し始めてちょっとたった頃から、時には涙声。
Answer
明るく、真面目な頑張り屋の素敵なお子さんなのですね。それも、けっしてただ明るく楽しいだけのいわゆるお調子者でなく、意外に人見知りもし、慣れるのに時間のかかる人なのだけれど、皆の前ではむしろそう見えない頑張り屋さん。あるいは皆の前ではそう振舞えるような人、振舞ってしまう人。それも彼の大事な一面かも知れません。
もう疲れはじめていたのでしょう。子どもも大人も誰でもそれぞれ「自分のイメージ」があります。「自己像」とか「アイデンティティ」と言われるものです。当り前ですが、彼には彼の「自己像」がありました。かなりのプライドもあったでしょう。そういったものを持っていること自体はとても大事なことなのですが、だんだんそれを充分に満たすことが出来なくなってきました。それに合わせるのが大変になってきました。身体の疲れもあったかも知れません。
しかし、それ以上に、中2ともなれば、ましてこんな中学では、成績のトップを取り続けるのはそんなに簡単な訳にはいかなくなってきていたのでしょう。家での彼のペースの家庭学習では、彼なりに一所懸命やっているだけでは、段々と無理になってきました。
周囲は皆んな塾に行っている、家庭教師を付けている。「ならば僕も仕方がないか」ということで、お子さんは塾へ行きはじめたのでしょう。彼の気持からでした。彼の希望で決めたことでした。もっともその背後では強くお母さんたちの気持ちを意識していたかも知れませんが。
ところがこの塾がかなりの難物でした。おびただしい宿題。それを消化するだけでも大変なことになりました。学校からの課題、宿題も消化しきれない程の質・量だったとのこと。そのこと自体もとてもおかしなことですね。しかし、今、日本のあちこちで同じことが起きているのでしょう。
もう彼の頑張れる範囲をいつの間にかはるかに越えておりました。尋常な疲れ、尋常なストレスどころではなくなってきました。「塾が引き金になったかも知れない」とお母さんはおっしゃいました。きっと明かな引き金だったのでしょう。しかし、彼の疲れ、ストレスはそれ以前にはるかに程度を越えて一杯になっておりました。
そんな中である日突然、宿題を、家庭での勉強をしなくなりました。もう勉強する気持ちが一旦すっかり失せてしまったのでしょう。怠けでも反抗でもなく、伸びきったゴムひもがもう利かなくなってしまったのでしょう。
おそらくこのストレスの中で、知能指数すら一時的に低下していたと思います。一所懸命頑張ろうとしても頭に入ってきません。字は見えていても理解できない、覚えようとしても覚えられない。それどころかあの今までいつでもあった「やる気」すらすっかり萎(な)えてしまった。そんな感じに彼の心はなっていたのでしょう。
お母さんは「一人っ子だったことが」と気にしておられました。それはないと思います。小さい頃の大手術が、かなり困難だった手術がその遠因にあるのではないかとも言われました。それもないと思います。皆さんのおかげで、彼は見事にそれを乗り越えました。長距離走の得意な、そして部活はバレーボールを張り切ってやっている少年に育っております。
やはり彼の中では目一杯の状態、それを越えた状況が続いていて、とうとうそれが「限度を越えた」ということだと思います。
そこからはいろいろです。そのまま登校拒否となり、家にこもってしまう諸君もいます。そちらの方が諸君のタイプとしては圧倒的に多いかも知れません。彼の場合は家でこそ全く勉強をやらなくなり、ひたすら10時間以上も寝る生活になりましたが、朝は7時に起きて学校へ出かけます。「楽しい」と言っております。部活もしっかりやっております。目茶苦茶大変なら、そんなこと出来る筈もないですから、まだ目一杯なりにどこか「ゆとり」もあったのでしょう。
成績はどんどん落ち始めました。彼の中ではかなりの混乱があることでしょう。「出来る」自分でした。程々にやっていていつもほぼトップにいられる自己像がありました。それが崩れはじめました。彼にとっては大きな混乱、それがまた新たなストレスにもなっていることでしょう。人はその時々にちゃんとした自己像がなければ、とても辛い状況に立つことになります。
そんな中で、彼の交友関係が大きく変わりました。いわゆるお母さんに言わせれば「心配な子たち」との付き合いになりました。けっして数が多いとは言えませんが、この時そうなる諸君は結構おります。互いに「責めない」「責められない」仲間です。この時一番ほっとする、そこにいて安心していられる、心が安全でいられる仲間かも知れません。
お母さんの心配はいよいよ大きなものになりました。電話の向こうでお母さんが涙声になったのがはっきりこちらに伝わってきました。仲間の5人が万引きをして捕まった。たまたま彼は居合わせなかっただけ、居合わせたら同じことをしていただろう・・・おそらくそうかも知れません。お母さんの不安はもう限度を越えそうです。
しかし急いで説得して何とかしようとしたり、そういった交遊関係を止めさせようとしたり、まして、「万引なんか」といった先回りの説教も止めておきましょう。言っても聞いてはくれません。彼の深いところからもうほとんど「吐き出し」とでも言っていい形で何かが始まっているのです。しばらくはその流れに任せるしかありません。
無意識のレベルにまで及ぶ吐き出しを、意識のレベルで、言葉で、説得・説教して何とかなるものならば、この世はずいぶん楽になります。平板になります。僕も長いこと教員をしていましたが、生徒諸君が一回の説得で皆「いい子」になってくれたら、こんな楽な仕事はなかったでしょう。
親は検事にも裁判官にもなれません。弁護士でもないでしょう。ひたすら子どもと一緒に被告席に坐る、共にお白洲に坐るしかないのです。一緒に潔くしっかり叱られましょう。厳しい説教を、「どんな育て方をしてきたんだ」といった理不尽な叱責をしっかり受けましょう。それを何回か、諸君によっては入念な人もいて、十何回か、二十何回か受ければ必ず一段落します。
「吐き出し」が概ね一段落すれば、元の素敵な頑張り屋さんの彼に戻ります。「三つ子の魂百まで」は真実なのです。一緒に潔く叱られるのは、立場も無いくらい叱りのめされるのは、とりわけ何回分かの効果があります。
そのあとお子さんを叱ってはいけません。「一緒に叱られる」だけです。叱ることは、社会からの鞭は、やはり社会に、学校に、警察に、もろもろの周りの方々にお任せしましょう。ただ大ケガだけはしないように、させないように、生命が亡くなるようなことをしないように、させないように、それだけは神様・仏様に祈りながら、あとはひたすらこの姿勢でいきましょう。
お子さんのことは心配ありません。やがて学校に行かなくなる、本格的な登校拒否が始まる・・・それもまたいいでしょう。恐がるほどのことではありません。仕方の無いことです。大きなストレスを未解決のまま、利子がどんどん加算されるまま続けていけば、その先にいってもっと大変になるかも知れませんから。
中学校で登校拒否が起きた場合、ほとんどの諸君が卒業までそのままとなります。ひどい無理はしないように、させないようにしていきましょう。こういうお子さんですから、ふっと学校へ行くことも、部活だけは出ることもあるかも知れません。それも止めることではないでしょう。
行くも行かぬも、出るも出ぬも、家庭学習するもしないも、全て彼に任せましょう。彼のことです。他人(ひと)のことです。一番大事な大事な人ですけれど、あなた自身ではないわけですから、別の人格をもった一人の人なのですから、基本的には他人です。赤の他人ではないだけです。
あることをきっかけに彼のためにお母さんは仕事を辞めて家に入ったと言われました。その彼から「僕はお母さんのロボットじゃない」「ガリ勉なんか大嫌いだ」と言われました。部屋に入るのを拒否されました。お母さんにとっては天地がひっくり返るほどのセリフですが、そのまま自分が非難されているような一つ一つの強烈な響きですが、この時のこの状況だったら諸君は誰もが同じセリフを言うことでしょう。辛いから、ひどく辛いからそう言うのです。辛さがそう言わせるのです。その言葉に、字面(じづら)にとらわれることなく、その苦しい気持ち、辛い気持ちだけはしっかり感じていて下さい。
彼の部屋は彼の聖域です。心の一部かも知れません。必要もないのに中に入ったり、小さかった頃のように掃除をしたり、物を並び変えたり片づけたりするのはもう止めましょう。独立した、もう大人になりかけている人の部屋です。ゴミがたまろうがどうしようが、頼まれない限り彼に任せておくことにしましょう。
そしてお母さんはもっと外に出ることにしましょう。このあともう一、二年後、彼は高校へ行くかも知れませんし、大検を受けるようになるかも知れません。その後どこか大学へ行くことになるのでしょう。
よほど「いじられ」ない限り、行かそう行かそう、出させよう出させようと更なる強烈な負荷をかけ続けない限り、彼はきっとどこかの大学へ何年か先には行っていることでしょう。そうでない別の素敵な展開もあるかも知れませんが。
辛い時には、一番大事な人が付ききりになるのはかえって辛いこともあるのです。「関心を持っていてもらいたいし、放っておいてもらいたいし」、複雑な心境です。
むしろ少し離れた方がいいのです。パートにでも出る方がどちらにとっても気が楽です。息がつけます。気晴らしも兼ねて外へ出てお金を稼ぐのもいいでしょうし、カルチャースクールのような所だっていいでしょう(けっこう彼にお金がかかることになるのです、いずれ、必ず)。
お母さん自身が「楽にいる」ことを考えましょう。自分自身も彼と同じくらい大事にしましょう。
このくらいでよろしいでしょうか。息子さんのこれからを、僕はとても楽しみにしております。7、8年経った頃、忘れなかったら葉書一枚で結構ですので、息子さんのその時の状況を知らせて下さい。楽しみにしております。
それでは、どうぞお元気でいて下さい。
Question
●はるばる九州K市から相談のお電話。
●息子さん、中2、13歳。
大事な大事な一人息子さん
●中1前半まで、難しいこの中学校でほとんど 成績は学年トップ。殆どどの子が学習塾へ行っている中で、彼は自宅学習だけ。「どうしてお宅のお子さんはそれだけであんなに出来るの」と同じクラスの子のお母さん。分からないことがあれば親が教えた。
●お母さんもかつて学校へお勤め。息子さんの様子がちょっと気になり出したので、勤めを辞めて家に入った。過保護にしたかも知れない。
●小さい頃肝臓に障害があり、難しい大手術を思い切って受けた。その折、とてもいいお医者さんだったのですっかり回復。今では部活でバレーボールをやり、長距離走が得意。一時は大変な手術で、その成功も覚束ない程のものだったので、悲しみのあまり息子と一緒に川へ飛び込もうと思ったほど。
●小学校で児童会長の候補に推され、担任の先生にも熱心に説得されたが、とてもイヤだったが引き受けた。周りからは明るく楽しく、時にはちょっとお調子者に見えるくらいかも知れないが、実際には人見知りのところがあり、慣れるのに時間のかかるタイプだと思う。
●じっくり頑張るタイプ。
感性豊かな子だと思う。
●11月の終わり、英語の成績がちょっと下がったので、「やはり塾に行くか」ということになり、本人の希望で行き始めたが、これの宿題が山ほどあって、それをこなすのが大変になる。本来、ガリ勉タイプではなかったが、それに追われるようになった。あるいはそのことが引き金になったのかも知れない。
●このごろ急に全く勉強をやらなくなってしまった。夜早くから、翌朝7時まで10時間以上も寝るようになった。急に反抗的になり、「僕はお母さんのロボットじゃない」「ガリ勉なんか大嫌いだ」と当たるようになった。
●付き合う友達もすっかり変わってきた。いわゆる「心配な子ども」たちと。その中の5人が万引きをやって捕まった。たまたま彼は入っていなかったが、いつでもそうなりそうな可能性があって、それも大きな悩みのタネ。
●彼の部屋に入るのも嫌がるようになった。
●お母さんの声は話し始めてちょっとたった頃から、時には涙声。
Answer
明るく、真面目な頑張り屋の素敵なお子さんなのですね。それも、けっしてただ明るく楽しいだけのいわゆるお調子者でなく、意外に人見知りもし、慣れるのに時間のかかる人なのだけれど、皆の前ではむしろそう見えない頑張り屋さん。あるいは皆の前ではそう振舞えるような人、振舞ってしまう人。それも彼の大事な一面かも知れません。
もう疲れはじめていたのでしょう。子どもも大人も誰でもそれぞれ「自分のイメージ」があります。「自己像」とか「アイデンティティ」と言われるものです。当り前ですが、彼には彼の「自己像」がありました。かなりのプライドもあったでしょう。そういったものを持っていること自体はとても大事なことなのですが、だんだんそれを充分に満たすことが出来なくなってきました。それに合わせるのが大変になってきました。身体の疲れもあったかも知れません。
しかし、それ以上に、中2ともなれば、ましてこんな中学では、成績のトップを取り続けるのはそんなに簡単な訳にはいかなくなってきていたのでしょう。家での彼のペースの家庭学習では、彼なりに一所懸命やっているだけでは、段々と無理になってきました。
周囲は皆んな塾に行っている、家庭教師を付けている。「ならば僕も仕方がないか」ということで、お子さんは塾へ行きはじめたのでしょう。彼の気持からでした。彼の希望で決めたことでした。もっともその背後では強くお母さんたちの気持ちを意識していたかも知れませんが。
ところがこの塾がかなりの難物でした。おびただしい宿題。それを消化するだけでも大変なことになりました。学校からの課題、宿題も消化しきれない程の質・量だったとのこと。そのこと自体もとてもおかしなことですね。しかし、今、日本のあちこちで同じことが起きているのでしょう。
もう彼の頑張れる範囲をいつの間にかはるかに越えておりました。尋常な疲れ、尋常なストレスどころではなくなってきました。「塾が引き金になったかも知れない」とお母さんはおっしゃいました。きっと明かな引き金だったのでしょう。しかし、彼の疲れ、ストレスはそれ以前にはるかに程度を越えて一杯になっておりました。
そんな中である日突然、宿題を、家庭での勉強をしなくなりました。もう勉強する気持ちが一旦すっかり失せてしまったのでしょう。怠けでも反抗でもなく、伸びきったゴムひもがもう利かなくなってしまったのでしょう。
おそらくこのストレスの中で、知能指数すら一時的に低下していたと思います。一所懸命頑張ろうとしても頭に入ってきません。字は見えていても理解できない、覚えようとしても覚えられない。それどころかあの今までいつでもあった「やる気」すらすっかり萎(な)えてしまった。そんな感じに彼の心はなっていたのでしょう。
お母さんは「一人っ子だったことが」と気にしておられました。それはないと思います。小さい頃の大手術が、かなり困難だった手術がその遠因にあるのではないかとも言われました。それもないと思います。皆さんのおかげで、彼は見事にそれを乗り越えました。長距離走の得意な、そして部活はバレーボールを張り切ってやっている少年に育っております。
やはり彼の中では目一杯の状態、それを越えた状況が続いていて、とうとうそれが「限度を越えた」ということだと思います。
そこからはいろいろです。そのまま登校拒否となり、家にこもってしまう諸君もいます。そちらの方が諸君のタイプとしては圧倒的に多いかも知れません。彼の場合は家でこそ全く勉強をやらなくなり、ひたすら10時間以上も寝る生活になりましたが、朝は7時に起きて学校へ出かけます。「楽しい」と言っております。部活もしっかりやっております。目茶苦茶大変なら、そんなこと出来る筈もないですから、まだ目一杯なりにどこか「ゆとり」もあったのでしょう。
成績はどんどん落ち始めました。彼の中ではかなりの混乱があることでしょう。「出来る」自分でした。程々にやっていていつもほぼトップにいられる自己像がありました。それが崩れはじめました。彼にとっては大きな混乱、それがまた新たなストレスにもなっていることでしょう。人はその時々にちゃんとした自己像がなければ、とても辛い状況に立つことになります。
そんな中で、彼の交友関係が大きく変わりました。いわゆるお母さんに言わせれば「心配な子たち」との付き合いになりました。けっして数が多いとは言えませんが、この時そうなる諸君は結構おります。互いに「責めない」「責められない」仲間です。この時一番ほっとする、そこにいて安心していられる、心が安全でいられる仲間かも知れません。
お母さんの心配はいよいよ大きなものになりました。電話の向こうでお母さんが涙声になったのがはっきりこちらに伝わってきました。仲間の5人が万引きをして捕まった。たまたま彼は居合わせなかっただけ、居合わせたら同じことをしていただろう・・・おそらくそうかも知れません。お母さんの不安はもう限度を越えそうです。
しかし急いで説得して何とかしようとしたり、そういった交遊関係を止めさせようとしたり、まして、「万引なんか」といった先回りの説教も止めておきましょう。言っても聞いてはくれません。彼の深いところからもうほとんど「吐き出し」とでも言っていい形で何かが始まっているのです。しばらくはその流れに任せるしかありません。
無意識のレベルにまで及ぶ吐き出しを、意識のレベルで、言葉で、説得・説教して何とかなるものならば、この世はずいぶん楽になります。平板になります。僕も長いこと教員をしていましたが、生徒諸君が一回の説得で皆「いい子」になってくれたら、こんな楽な仕事はなかったでしょう。
親は検事にも裁判官にもなれません。弁護士でもないでしょう。ひたすら子どもと一緒に被告席に坐る、共にお白洲に坐るしかないのです。一緒に潔くしっかり叱られましょう。厳しい説教を、「どんな育て方をしてきたんだ」といった理不尽な叱責をしっかり受けましょう。それを何回か、諸君によっては入念な人もいて、十何回か、二十何回か受ければ必ず一段落します。
「吐き出し」が概ね一段落すれば、元の素敵な頑張り屋さんの彼に戻ります。「三つ子の魂百まで」は真実なのです。一緒に潔く叱られるのは、立場も無いくらい叱りのめされるのは、とりわけ何回分かの効果があります。
そのあとお子さんを叱ってはいけません。「一緒に叱られる」だけです。叱ることは、社会からの鞭は、やはり社会に、学校に、警察に、もろもろの周りの方々にお任せしましょう。ただ大ケガだけはしないように、させないように、生命が亡くなるようなことをしないように、させないように、それだけは神様・仏様に祈りながら、あとはひたすらこの姿勢でいきましょう。
お子さんのことは心配ありません。やがて学校に行かなくなる、本格的な登校拒否が始まる・・・それもまたいいでしょう。恐がるほどのことではありません。仕方の無いことです。大きなストレスを未解決のまま、利子がどんどん加算されるまま続けていけば、その先にいってもっと大変になるかも知れませんから。
中学校で登校拒否が起きた場合、ほとんどの諸君が卒業までそのままとなります。ひどい無理はしないように、させないようにしていきましょう。こういうお子さんですから、ふっと学校へ行くことも、部活だけは出ることもあるかも知れません。それも止めることではないでしょう。
行くも行かぬも、出るも出ぬも、家庭学習するもしないも、全て彼に任せましょう。彼のことです。他人(ひと)のことです。一番大事な大事な人ですけれど、あなた自身ではないわけですから、別の人格をもった一人の人なのですから、基本的には他人です。赤の他人ではないだけです。
あることをきっかけに彼のためにお母さんは仕事を辞めて家に入ったと言われました。その彼から「僕はお母さんのロボットじゃない」「ガリ勉なんか大嫌いだ」と言われました。部屋に入るのを拒否されました。お母さんにとっては天地がひっくり返るほどのセリフですが、そのまま自分が非難されているような一つ一つの強烈な響きですが、この時のこの状況だったら諸君は誰もが同じセリフを言うことでしょう。辛いから、ひどく辛いからそう言うのです。辛さがそう言わせるのです。その言葉に、字面(じづら)にとらわれることなく、その苦しい気持ち、辛い気持ちだけはしっかり感じていて下さい。
彼の部屋は彼の聖域です。心の一部かも知れません。必要もないのに中に入ったり、小さかった頃のように掃除をしたり、物を並び変えたり片づけたりするのはもう止めましょう。独立した、もう大人になりかけている人の部屋です。ゴミがたまろうがどうしようが、頼まれない限り彼に任せておくことにしましょう。
そしてお母さんはもっと外に出ることにしましょう。このあともう一、二年後、彼は高校へ行くかも知れませんし、大検を受けるようになるかも知れません。その後どこか大学へ行くことになるのでしょう。
よほど「いじられ」ない限り、行かそう行かそう、出させよう出させようと更なる強烈な負荷をかけ続けない限り、彼はきっとどこかの大学へ何年か先には行っていることでしょう。そうでない別の素敵な展開もあるかも知れませんが。
辛い時には、一番大事な人が付ききりになるのはかえって辛いこともあるのです。「関心を持っていてもらいたいし、放っておいてもらいたいし」、複雑な心境です。
むしろ少し離れた方がいいのです。パートにでも出る方がどちらにとっても気が楽です。息がつけます。気晴らしも兼ねて外へ出てお金を稼ぐのもいいでしょうし、カルチャースクールのような所だっていいでしょう(けっこう彼にお金がかかることになるのです、いずれ、必ず)。
お母さん自身が「楽にいる」ことを考えましょう。自分自身も彼と同じくらい大事にしましょう。
このくらいでよろしいでしょうか。息子さんのこれからを、僕はとても楽しみにしております。7、8年経った頃、忘れなかったら葉書一枚で結構ですので、息子さんのその時の状況を知らせて下さい。楽しみにしております。
それでは、どうぞお元気でいて下さい。
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