北澤 康吉/ロジャース流カウンセラー

 M君が突然「ワー」っと叫んだあと、何かを必死でこらえるように身体を震わせていました。特に何というのではなく、それまで皆でワイワイやっている傍にいて、全く突然のことでした。皆びっくりし、あっけにとられ、「またか」と思い、どうしたらよいのか困っていました。

 しかし、しばらくしてにわか雨が通り過ぎるようにそれは収まり、その後、彼はバツが悪そうに自分の部屋に入ってしまいました。更にしばらくして、「さっきはゴメン」といった感じで、彼は皆のところへ戻ってきました。皆もどう声をかけて良いか分らず、表面はともかくかなり戸惑っている感じでしたが、それもいつの間にか普段の感じに戻っていきました。実はM君はこれが初めてではなかったのです。

 何か辛いものが一杯たまっていたのでしょう。皆と一緒にはいたのですが、すっかりその輪の中に入って一緒にワイワイといった感じではなかったのです。入りたいのに入れない、どうしたらよいか分らぬまま、そうかといって皆から離れるのはもっと辛く、彼なりに頑張ってここにいたのです。キッカケすら分らない程でしたが、既に彼の中では何かが一杯になっていたのです。それを言葉に表せたり、行動にして出せれば或いは何もなかったのかも知れません。

 真面目な良い子です。頑張りすぎるくらい頑張って、とうとうそのストレスの限度まできて、動けなくなった彼でした。M君の心深く、いろいろなものが一杯たまっていたのでしょう。それがとうとう彼のコントロールを越えて暴発したのです。激しい吐出しです。とても滑らかなものとは言えません。たまったものが一挙に吐き出されたのですから。しかし、それでひとまずM君は軽くなったのですから、大きな重い荷物を降ろしたのですから、これはこれでとても大事だったのです。

 ただ、周りの者がそのことを分っているのが何よりも必要です。こんな場合、周りのちょっとした反応で、ひどく傷つくこともあります。からかったり、責めたりせずに、彼の辛さのところにそのまま一緒にいる、詳しいことは分らなくても、何となく、しかしはっきり感じられるその辛さのところに、そっといてあげるだけでいい。
 そんなふうに思われるのです。

【ヒステリー】
 神経症の一つの型。劣等感・孤独・性的不満・対人関係などの心理的感情的葛藤が運動や知覚の障害などの身体的症状に無意識的に転換される反応。歩行不能・四肢の麻痺・痙攣・自律神経失調症・皮膚感覚鈍磨・痛覚過敏・失声・嘔吐など多彩で、健忘・混迷などの精神症状を示すこともある。いずれも、他者の注意を引き、その指示を期待すると言う合目的性が本人の意識しない形で含まれていると見られる。これらの症状が急に起こる場合をヒステリー発作という。(広辞苑より)