連載コラム
場面緘黙 (ばめんかんもく)2007年11月13日
Category: 連載コラム
北澤康吉/ロジャース流カウンセラー
月代ちゃん(仮名)。小学校3年生。お月様のように、いつも丸顔でニコニコしておりました。少年少女の詩吟教室、そのメンバーの一人でした。彼女は一言もしゃべらないのです。別に不満があるわけでも反抗しているわけでもありません。彼女の顔を見れば、それどころか心の中までニコニコとしているのがはっきり分かります。しかし、とにかく一言もしゃべらないのです。お世話しているこちらも別に困ることもないのです。
詩吟の時は大きな声でやります。終われば元の無口のニコニコに戻るだけです。お母さんやお父さん、お兄さんとは話をしたでしょう。家では必要なことはちゃんとしゃべっていたことでしょう。外では、学校でも詩吟の教室でも見事に一言もしゃべらなかったのです。以前から良く知っているご家庭でした。お父さん、お母さんも、近くに住んでいるお祖父ちゃんやお祖母ちゃんも素敵な方々でした。「家族の何かが原因で・・・」ということは全くない人たちでした。
「無理にしゃべらそうとしてはいけないな」と思いました。そのことだけは不思議と確かな感じがしました。彼女のそのままで充分でした。何か心の奥深く「今はしゃべらない、そのほうが安心、心が安全に守られている」感じでした。
大きな大会にも出ました。年上の子たちから順番で合吟の号令、吟題・作者名を言うことになっており、彼女にその番が回ってきました。「無理をさせてはいけないな」という気持ちがありましたので、「月代ちゃん、どうする? やってみる?」と聞いてみました。彼女はこっくりとうなづきました。本番当日、彼女は多勢の聴衆の前で朗々と題名・作者名を言い、前後の「礼!」の号令も爽やかでした。そして、戻ればまたいつもの無口でニコニコの彼女。その落差が何とも可愛く印象的でした。
それから十年以上が過ぎました。彼女は短大を出てある大きな企業に就職、職場結婚、STEP英語検定の2級合格。友達と旅行に行ったり、いろいろ楽しんだり。いつの間にか程よくしゃべる彼女に戻っていたことでしょう。彼のプロポーズに何と答えたのでしょうか。英語検定2級は会話もあります。黙っていたら合格はできません。
その後、ご主人の長期研修出張でアメリカへ。彼女も同行し、検定の1級を取るため本場で経験を深めたいとのことでした。今頃、日本語も英語も程よく話していることでしょう。彼女のことですから、けっしてペチャクチャのおしゃべり屋さんではなく、慎み深い、思いの深い言葉で人と接していることでしょう。
心の深い部分の現れが、たまたま「場面緘黙」と言う形で外に出たのだと思います。彼女にとってとても意味のある不可欠な「安全・安心」の姿だったのでしょう。私たちも含めて皆さんがそっとそれを大事に守りました。もし「何とかしよう、何とかしよう」とし、無理矢理矯正する働きかけをしたならば、彼女の吐き出しは全面的に「否定」されたことになり、おそらく彼女はかなり混乱し大きなストレスに曝されたことでしょう。その後のニコニコとした人生に大きな傷を残したと思います。
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詩吟の時は大きな声でやります。終われば元の無口のニコニコに戻るだけです。お母さんやお父さん、お兄さんとは話をしたでしょう。家では必要なことはちゃんとしゃべっていたことでしょう。外では、学校でも詩吟の教室でも見事に一言もしゃべらなかったのです。以前から良く知っているご家庭でした。お父さん、お母さんも、近くに住んでいるお祖父ちゃんやお祖母ちゃんも素敵な方々でした。「家族の何かが原因で・・・」ということは全くない人たちでした。
「無理にしゃべらそうとしてはいけないな」と思いました。そのことだけは不思議と確かな感じがしました。彼女のそのままで充分でした。何か心の奥深く「今はしゃべらない、そのほうが安心、心が安全に守られている」感じでした。
大きな大会にも出ました。年上の子たちから順番で合吟の号令、吟題・作者名を言うことになっており、彼女にその番が回ってきました。「無理をさせてはいけないな」という気持ちがありましたので、「月代ちゃん、どうする? やってみる?」と聞いてみました。彼女はこっくりとうなづきました。本番当日、彼女は多勢の聴衆の前で朗々と題名・作者名を言い、前後の「礼!」の号令も爽やかでした。そして、戻ればまたいつもの無口でニコニコの彼女。その落差が何とも可愛く印象的でした。
それから十年以上が過ぎました。彼女は短大を出てある大きな企業に就職、職場結婚、STEP英語検定の2級合格。友達と旅行に行ったり、いろいろ楽しんだり。いつの間にか程よくしゃべる彼女に戻っていたことでしょう。彼のプロポーズに何と答えたのでしょうか。英語検定2級は会話もあります。黙っていたら合格はできません。
その後、ご主人の長期研修出張でアメリカへ。彼女も同行し、検定の1級を取るため本場で経験を深めたいとのことでした。今頃、日本語も英語も程よく話していることでしょう。彼女のことですから、けっしてペチャクチャのおしゃべり屋さんではなく、慎み深い、思いの深い言葉で人と接していることでしょう。
心の深い部分の現れが、たまたま「場面緘黙」と言う形で外に出たのだと思います。彼女にとってとても意味のある不可欠な「安全・安心」の姿だったのでしょう。私たちも含めて皆さんがそっとそれを大事に守りました。もし「何とかしよう、何とかしよう」とし、無理矢理矯正する働きかけをしたならば、彼女の吐き出しは全面的に「否定」されたことになり、おそらく彼女はかなり混乱し大きなストレスに曝されたことでしょう。その後のニコニコとした人生に大きな傷を残したと思います。
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