北澤康吉/ロジャース流カウンセラー

 関西B県の秋男君。仲の良い父と子でした。子煩悩の父は超多忙の仕事の合間をみては3人の子供と小犬のようにじゃれ合って遊ぶ仲でした。単身赴任の土帰月来生活でしたが、そのちょっとの間を惜しんでは子供たちと遊んでおりました。子ども達はお父さんが帰ってくるのをいつも楽しみに待っておりました。いいお父さんでした。彼はある私立の中学校1年生、それも彼が希望した中学校でした。
 
 2学期頃から学校へ行けなくなり始めました。葛藤の末にとうとう完全に行けなくなった頃、激しい「不潔恐怖」が現れました。それも今まで一番大好きだったお父さんが触った所を一切触れなくなってしまったのです。十年以上一緒に住んでいれば、天井裏とか床下以外は全てお父さんが触った可能性があります。だから彼は家中ほんとうにどこも触れなくなったのです。

 トイレへ行くこと一つが大変な仕事になりました。お母さんが露払いのように、侍女のようにドアの開け閉め、蛇口の開閉までしなければなりません。いつまで手を洗っていても気が済まないのです。一日に石鹸を一個使い、水道料が家計に響くほどだったと言います。土曜日にお父さんが帰ってきても、家に入ることができません。お父さんも大事な息子の一大事ですから気が気ではないのですが、無理矢理入れば却えって彼は大パニックになってしまうのです。

 もし、お父さんに原因があるならば、この行為も納得できますが、思い当たることは何もないのです。
「父子関係の正常化」と言う人がおりますが、そうではないようです。何か訳の分からぬ吐き出しが、たまたまお父さんに向けて出たのです。どういうわけか吐き出しが父への「嫌悪・憎悪・拒否」、それ程でなくても「煙たがって避ける」といった形で現れるのです。

 「家庭内暴力」はほとんどお母さんに向かって出ますが、何かそれぞれの役割といったものがあるようです。お父さんもひどく辛いところですが、自分のことが原因で起きたのではない。息子の苦しみの吐き出しの的になる、これも父親である自分の大事な役目だと理解することが、せめてものこの時を通り抜ける大事な支えになると思います。

 いずれ諸君が一段落し、すっかり楽になり、いろいろな動きが始まれば、このことはひとりでに消えます。互いに心の深い部分に痛みを経験した者同士、だからこそ却えってしみじみとした仲の父と子に戻れるのです。